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5-13 京極の予感 1

last update Last Updated: 2025-05-18 21:22:47

「でも意外でした。まさか九条さんと翔さんが二階堂社長の後輩にあたるなんて…」

朱莉はワインを少しずつ飲みながら二階堂と話をしていた。

「ええ、その頃から私はいずれ起業することを考えていて、既に九条を引き入れようと考えていたんですよ。だから九条が鳴海の秘書になるって聞かされた時は正直、驚きを通り越してショックでしたね。何だかこっぴどく振られた気分でしたよ」

「振られた気分ですか? それは中々面白い表現ですね」

朱莉が二階堂の話に笑みを浮かべた時。

「朱莉さん」

背後から突然声をかけられた。

(え……? その声は……?)

朱莉は思わずビクリとなり、恐る恐る振り返るとそこには京極が立っていた。口元は笑みを浮かべていたが……目元は笑っていなかった。

「こんばんは、朱莉さん。こうしてまた貴女とお会い出来るなんて奇遇ですね」

口元だけ笑みを浮かべながら朱莉に声をかけ、チラリと二階堂を見た。

「きょ、京極さんも呼ばれていたのですね?」

朱莉は緊張の面持ちで京極を見た。

「はい、それにしても今夜の朱莉さんはいつも以上に美しいですね。本当に今夜は何てラッキーなんだろうと思いましたよ」

「い、いえ。そんなに大袈裟なことありませんから……」

朱莉は俯いた。何故なら、まるで何かに怒っているかのような京極がいつも以上に怖く感じたからだ。

一方の二階堂は京極と朱莉の間に流れる緊張感に気が付いた。

(一体、どうしたというんだ? この男が来てから様子が変だぞ……? ん?)

よく見ると朱莉の手足が小刻みに震えている。

(このまま黙って見てはいられないな……)

「今この方と私は会話をしていた最中なのです。失礼ですが、貴方はどちら様なのですか?」

二階堂は京極から隠すように朱莉の前に立ちはだかる。

「貴方は確か『ラージウェアハウス』の創設者の二階堂晃社長ですね?」

それを聞いた二階堂の眉がピクリと動いた。

「……私のことをご存知なのですか?」

「ええ。貴方はIT産業部門では有名人ですからね……ちなみに僕もIT企業経営者なのですけどね。京極正人と申します。朱莉さんとは同じ億ションに住んでいるご近所さんなんですよ。プライベートで朱莉さんと交流があるんです。そうですよね? 朱莉さん?」

不意に朱莉は声をかけられ、肩を震わせながら小さく頷いた。

「は、はい。そうです……。その節は色々ありがとうございます……」
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    式典が終わる時間がやってきた。「しかし、姫宮君も大げさだな……。少しクラッと来ただけなのに医務室へ行かせるなんて」控室のソファに座った猛は姫宮と話をしていた。「何をおっしゃっているのですか、会長。たまたま私が傍にいた為、会長の異変に気づきましたが……仮にあの会場で倒れられたら大騒ぎになっておりましたよ?」「ハハハ……やはり、姫宮君には叶わないな。どうだ? もう一度私の専属秘書に戻るか? 翔にはまた新しい秘書を見つければいいわけだし……」「いいえ、会長。お言葉ですが……もう暫く副社長の下で秘書の仕事をさせて下さい。朱莉様とも折角仲良くなれたので」姫宮は頭を下げた「ああ……なるほど。そういうことなら分かった。ではもう暫く姫宮君には副社長のお守りをしてもらうとするか?」そして猛は笑った——**** その後—— 猛は会場に戻ると最後の挨拶をし、式典は無事に終了となった。式が終わると翔は朱莉に声をかけた。「朱莉さん、蓮を迎えに行かないといけないんだろう? 俺はまだ用事があるから会社に戻ることは出来ないけど、タクシー乗り場まではついて行くよ」「はい、ありがとうございます」するとそこへ二階堂が声をかけてきた。「それなら俺が途中まで送るよ。丁度これからタクシーに乗って帰るところだったからな」「二階堂先輩……」翔は何故か苦々し気に二階堂を見た。「何だ? その顔は。鳴海、お前何か勘違いしていないか?」「え……?」朱莉が怪訝そうに翔を見上げる。すると二階堂が耳打ちしてきた。「鳴海、京極の事を警戒しているんだろう? お前がついていけないなら俺が付いていてやろうかって言ってるんだよ」「!」翔は二階堂の顔を見た。「……そうですね。お願いします」翔は素直に頭を下げた。「ああ、任せろ」そして二階堂は朱莉に視線を向ける。「それじゃ、朱莉さん。一緒にタクシー乗り場に行きましょう」「あの……いいんですか?」朱莉は翔を見上げた。「そうしてくれるかい? 朱莉さんを1人にしておくのは心配だからね」「分かりました。それでは二階堂社長、お世話になります」朱莉が頭を下げた時。「副社長! 朱莉様! こちらにいらしたのですね?」姫宮がやって来た。そして二階堂を見ると挨拶をした。「始めまして。私は副社長の秘書を務めております姫宮と申します。本日はわ

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  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   5-12 恋心に気付かされ 2

     翔が取引先に挨拶をしに行ったので、朱莉は1人残された。そこで立食テーブルに行き、皿に料理を取り分けていると、自分のすぐ側に人の気配を感じて思わず振り向いた。そこには二階堂が立っていた。「あ……二階堂社長……」「先程はどうも」そして朱莉にワインを差し出してきた。「あ、あの……私もうこれ以上お酒は……」朱莉が言い淀むと二階堂は笑顔で言った。「まあそう言わずに、一杯だけお付き合い下さい」「は、はい……」朱莉は断っては失礼かと思いワインを受け取ると、二階堂がグラスをカチンと打ち付けて来た。「乾杯」そしてクイッと飲み干すと朱莉に尋ねた。「どうも鳴海と呼ぶのは苦手で。朱莉さん……と呼んでも構いませんか?」「は、はい。構いません」「それは良かった」二階堂は笑みを浮かべた。「実は私が九条をオハイオ州へ移転させたのは……朱莉さん、貴女から九条を引き離す為だったのですよ」「え!?」「昨年、いきなり私宛に匿名で届いたんですよ。貴女と九条が一緒に写っている写真と九条に関する報告書が」「私と九条さんに関する報告書……ですか?」「ええ。その報告書には九条琢磨が鳴海翔の妻、鳴海朱莉に恋愛感情を抱いていると書かれていたんですよ」「そ、そんな……」朱莉はその話に耳を疑った。まさか九条の身にそのような事態が起こっていたとは思いもしていなかった。「だから一計を案じた私は九条をオハイオ州に行かせたんですよ。長くても後数年は日本には戻らないように言い聞かせてね」「数年……」ポツリと呟く朱莉。でもこれで納得がいった。何故突然琢磨がアメリカへ行くことが決定したのか。しかもそれを教えてくれたのは航だった。その時、朱莉はある一つの疑問が浮かんだ。(もしかして……航君も脅迫されていたの? だから突然私の前から姿を……?)そう考えれば辻褄が合う。「あ、あの二階堂社長! 誤解ですから!」「誤解? 何がですか?」「私と九条さんは噂を立てられるような仲では無いということです。九条さんは私のせいであらぬ疑いを掛けられてしまったのですね。申し訳ないことをしてしまいました」二階堂は朱莉の話に一瞬驚いた表情を見せた。「朱莉さん……気が付かなかったのですか? 九条が……貴女のことを好きだと言うことに……」「え? ま、まさか……九条さんは翔さんの秘書だから、私に色々親

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   5-11 恋心に気付かされ 1

    (え……? だ、誰……? この人は……)朱莉は思わずその男性をじっと見つめてしまった。そっくりとまではいかなくても、背格好や、雰囲気が翔に良く似ていたので朱莉は思わず目を擦ってしまった。「あの……どうかしましたか?」男性は少し困ったように首を傾げた。その声はとても優し気だった。そこで朱莉は初めて自分がいつまでも男性を見つめてしまっていたことに気が付いた。「あ……も、申し訳ございません! 不躾に見てしまって……」朱莉は慌てて頭を下げて謝罪した。すると男性は穏やかな笑みを浮かべる。「お怪我は無かったようですね。良かったです。それでは失礼します」丁寧に頭を下げると、男性は会場を去って行った。その後ろ姿も翔によく似ていた。(他人のそら似……? それにしても一瞬翔先輩かと思っちゃった……。髪型が違っていたら見分けがつかなかったかも。会長とお話をしていたってことは、知り合いなのかな……?)その時……。「朱莉さん!」背後で朱莉を呼ぶ声が聞こえた。振り向くと息を切らした翔が駆け寄ってきた。「良かった……ここにいたのか。急に姿が見えなくなってしまったから探したよ」「すみませんでした。お手洗いに行った後に迷ってしまったのです」「そうか……ここは似たような造りになっているからね。会場はこっちだよ、戻ろう」「はい」翔に促されて、朱莉は返事をした。そして歩きながらもう一度先程の男性が去って行った方向を振り返った。(あの人は……誰だったんだろう……? )朱莉の心は妙にざわつくのだった——**** 会場へ戻ると、先程よりも人の数が増えているように朱莉は感じた。そこで隣に立っていた翔に尋ねた。「あの……何だか先程よりも人が増えている気がしませんか?」「そうなんだ。最初の式典では椅子を並べての式だったから人数制限が掛けられていたんだよ。今は立食パーティーの時間なんだけど、それに合わせてやってくる関連企業の人達も集まっているんだ。この式典の最後にもう一度会長からの挨拶があるからね」「そうだったんですね。ところで姫宮さんの姿が見えませんけど?」朱莉は先ほどから姫宮の姿が見えないことに気付き、翔に尋ねた。「言われて見れば……一体何処へ行ったのだろう……?」**** 丁度その頃―― 姫宮はホテルの駐車場裏手の人目の付かない所で京極と話をしていた。「

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   5-10 出会い 2

     翔は二階堂の前に立ち塞がると、口を開いた。「……随分とお久しぶりですね。二階堂先輩」「え?」朱莉はその言葉に顔を上げる。「ええ。私は彼の先輩でもあるんですよ」二階堂は朱莉に笑顔で答えた。「そうだったんですか!?」「ええ、そうですよ」「二階堂先輩……それより私の妻に何の話をしていたのですか?」何故か翔は二階堂に棘のある言い方をする。「いや、ただ九条について少し話をしていただけさ」「琢磨……。あいつは今どうしているんですか?」「オハイオ州で頑張ってるよ。今年中に支社を作る予定だったからね」「あの、九条さんはもう日本には戻って来ないのですか?」朱莉の質問に二階堂は何故か含みを持たせる言い方をした。「会いたいのですか? 彼に……」「! そ、そう言う意味で言ったわけでは……」(何……? この二階堂社長……私の反応を試しているみたい……)思わず朱莉が俯くのを見た翔が二階堂に言った。「妻は琢磨に散々世話になってるのです。別に気に掛けてもおかしくはない話だと思いますけど?」「翔さん……」「成程……。分かりました。それじゃ九条に伝えておきますよ。2人が気に掛けていたと言うことをね」二階堂が立去りかけるのを翔が引き留めた。「待って下さい。二階堂先輩」「何だい?」「少し……2人で話がしたいのですけど……」「まあ別に構わないけど……いいのか? 大事な妻を残して置いて」二階堂はチラリと朱莉に視線を送る。「私なら大丈夫です。どうぞお2人でお話をしてきて下さい」朱莉は頭を下げてその場を去って行った。「……」そんな朱莉の後姿を見つめながら二階堂は言った。「鳴海、随分と綺麗な女性を妻にしたんだな?」「……琢磨から何か聞いてるんですか?」翔はそれには答えず、質問してきた。「何かって?」「先輩が意味もなく彼女に話しかけてくるとは思えませんからね」「話は聞いていないが、事情は知っている。九条は彼女のことが好きなんだろう?」「そう……ですか。やっぱり……」翔はギュッと拳を握りしめた。「何だ、鳴海も知っていたのか? しかし、良く黙っていられたな? 仮にも自分の妻に想いを寄せるなんて、普通に考えたらそこで九条を殴りつけるなりしてもいい立場なんじゃないか?」「……俺にはそんな資格はありませんよ」翔は視線を逸らせた。「どういう

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   5-9 出会い 1

    「しょ……翔さん!?」あまりにも強い力で抱きしめられ、朱莉は息が詰まりそうになった。(な、何故? 翔先輩……何故突然こんな真似を……?)すると翔の囁きの様にも取れる声が耳元で聞こえてきた。「……そんなことは考えなくていい……」「え?」すると翔は朱莉の身体を自分から引き離し、両肩に手を置いた。「朱莉さんは、自分は偽装妻だとか言ってるけど……もうそんなことは気にしなくていいんだ!」「え? で、でも……」(だって、翔先輩がずっと言ってたんですよ? 私達の関係はビジネスだって……)「朱莉さんは蓮の母親として立派に務めを果たしてくれている。だから、どうか頼むから……もっと堂々と振舞ってくれ……!」「わ、分かりました」朱莉は上ずった声で返事をした。「え……? 分かってくれたのかい?」(朱莉さん……ひょっとして俺の気持ちに……?)しかし、朱莉の出した答えは期待外れのものだった。「そうですね。今日は大事な式典の日なので翔さんに恥をかかせるわけにはいきませんからね。頑張って演技します」「あ、ああ……そ、そうだね。よろしく頼むよ……」肩を落としながら翔は返事をするのだった——****  その後、翔と朱莉は式典へ参加した。2人の席は一番前の席で、朱莉の隣には姫宮が座った。その他、今まで一度も会ったことの無い重役達も最前列に座り、式典は始まった。司会者の話から会長の挨拶、社長の挨拶からさらに祝辞と続いた。そしていよいよ立食パーティーが開催された。途端に翔と朱莉は大勢の人々に囲まれたが、翔に言われた通り朱莉は片時も翔の傍を離れず、自己紹介と相槌だけで何とかその場をしのぎ切った。 パーティー開始30分後にはやがて人もまばらに各テーブルへと散ってゆき、ようやく朱莉は人心地付けるようになった。「朱莉さん、大丈夫かい?」翔が心配して声をかけてきた。「え? ええ大丈夫です」「俺は少し会長の所へ用があって行かなければならないんだけど1人で大丈夫かい?」「はい、大丈夫です。どうぞ行ってきて下さい」「ああ、悪いね」翔が去って行くのを見届けると朱莉は初めてテーブルに向い、取り合えずシャンパンを手に取った。すると背後から突然声をかけられた。「失礼、鳴海翔さんの奥様でいらっしゃいますか?」「え?」慌てて振り向くと、そこには見たことも無い男性が立っ

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   5-8 式典前の出来事 2

     ホテルへは15分程で着いた。タクシーを降りると姫宮は朱莉を連れて会場へと向かった。会場はホテルの3Fにある大ホールで行われる事になっている。ホールへ着くと既に大勢の人々が集まっており、朱莉は久々に緊張してきた。(ど、どうしよう……私みたいな人間……はっきり言って場違いなんじゃないかな? それに妻と言っても所詮私は偽装妻だし……)緊張しきった朱莉は姫宮に連れられて、ある部屋を案内した。「こちらに会長と社長、それに副社長がおられますので」「は、はい!」朱莉は緊張しながら返事をした。姫宮はドアをノックした。「朱莉様をお連れしました」するとすぐに翔がドアを開けて現れ、朱莉を見ると笑みを浮かべた。「朱莉さん、待ってたよ」そして自然に朱莉の背中に手を当て、中へと案内した。すると朱莉の目に会長と見たことの無い中年の男性がこちらを向いて立っている。その男性は何処となく翔に似ていた。「朱莉さん、よく来てくれたな」鳴海猛が朱莉を見て笑顔で声をかけてきた。「会長、その節はありがとうございました」朱莉は深々と頭を下げると、猛が言った。「朱莉さん、彼に会うのは初めてだろう? 私の息子で、翔の父親の鳴海竜一だ」「初めまして。朱莉さん。翔の父の竜一です」男性は優しい笑みを浮かべて挨拶をしてきた。「初めまして。朱莉と申します。いつも翔さんには良くして頂いております」すると猛が言った。「朱莉さん、正直に言ったほうがいいぞ? 翔は私に性格が似ていて冷酷な所があるからな。今から直して欲しい所があるなら言っておいた方がいいぞ?」「か、会長 !な、何てことを……」翔は顔を赤らめた。「いえ、翔さんは完璧な方ですから直して貰いたいところは何処もありません」朱莉は笑顔で答える。「ほう……あなたはうちの息子を随分買ってくれているようですね。ありがとうございます」社長の鳴海竜一は目を細めると翔が声をかけた。「それではそろそろ会場へ行きましょう」そして猛が先頭に立ち、部屋を出ていき、次に竜一が続いた。「副社長、お二方は行かれましたが……?」姫宮が声をかけると翔は言った。「姫宮さん、先に会場へ行っていてくれ。少し朱莉さんとここで話をしてから向かうから」「承知いたしました」姫宮は頭を下げると部屋を出て行った。そして朱莉と翔、2人きりになると翔が朱莉に語

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